こんにちは、もとみんです。2021年1月25日発売の週刊少年ジャンプにて、松井優征先生の新作「逃げ上手の若君」がスタートしました。
松井先生といえば「暗殺教室」「魔人探偵脳噛ネウロ」などでおなじみですが、今回の「逃げ上手の若君」は歴史モノで、主人公は史上人物・北条時行とのこと。
北条時行ってちょっとマニアックですよね!?
正直わたくしめは、最初きいたとき「誰だっけ?」と思いました。すまん、時行…!
しかし、おそらく多くの人がそう思ったとおもうんですよ。たとえばNHK大河ドラマだって主人公になるのはたいがい有名な人物ですし、創作作品の題材に選ばれるのはおおよそ信長とか秀吉とか家康とかビックネームです。
しかし時行…このある意味マニアックな題材に、「ふお~これを週刊少年ジャンプでやるんだ!」と驚きました。もっといえば、史上人物をあつかうこと自体に驚きました。だってジャンプだったら、時行をもとにしたファンタジーでもマッチしそうじゃないですか??
そんなわけで、この衝撃の事実に驚いたので、いまこうしてブログを書いております。
前回「鬼滅の刃」のことを書いたのですが、今回はそれと交えていろいろ思ったことを書いていこうかなあと思います。
そもそも北条時行ってどんな人?
そもそも北条時行ってどんな人?ということなのですが、、
一言でいえば、
足利尊氏に対抗しまくって鎌倉幕府再興を狙った人
です。
北条氏といえば、鎌倉幕府の執権職を代々行っていた一族です。
鎌倉幕府はそもそも源頼朝がひらいたことでスタートし、将軍+執権という二人三脚状態で幕府をおさめていました。
初代将軍はもちろん源頼朝ですが、源氏の支配が続いたのは頼朝含め3代まで。そのころにはすっかり執権・北条氏が「へっへっへ、将軍なんて所詮傀儡よ…ニヤリ」レベルに幕府を牛耳っておりました。なんか源がかわいそうな気がしてきた…涙
しかし朝廷側の後醍醐天皇とドンパチやった結果、時行の父ちゃんである第14執権・北条高時および北条一族は自害し、鎌倉幕府は崩壊。こうして後醍醐天皇が政治をおさめることになったわけですが、鎌倉幕府の再興をもくろむ北条一族の残党は諸国で戦いを起こし、北条時行も蜂起することになりました。
時行が生涯かけて戦ったのは、かの有名な足利尊氏です。
尊氏といえば室町幕府をひらいた人物ですが、そんなひとと生涯かけてドンパチしてたなんて胸熱すぎます。すげーよ時行!
それなのにこの知名度の差は絶望としかいいようがないではないか!しかしそれがいま漫画に!おお、なんという希望!!
戦っては逃げて隠れた北条時行
ところで、松井先生の新作のタイトルは「逃げ上手の若君」ですよね。ちょっと独特なタイトルですが、これまた史実からとっているようですね。
時行は死ぬまでになんども転戦し、数度にわたって鎌倉奪還を果たしています。でもそのつど雲行きがあやしくなって、逃げて隠れているのです。そのうち1度は、尊氏も「北条時行は死んだ」と思ってたのに生きてたもんだから「えーッ!生きてたの!?」と驚いたそうな。
「逃げる」というと基本はネガティブな行為に思えますが、時行はこれによって鎌倉占拠を果たしたといっても過言ではありません。
押してダメなら引いてみろ。これもきっと戦略…ですよね!?
もちろん完全な鎌倉奪還はできませんでしたが、足利尊氏に対峙しながらそこまでの功績を残せるのはすごいなあと思います。
逃げるといえば…「逃げるは恥だが役に立つ」
ところで、逃げるといえば「逃げるは恥だが役に立つ」というドラマが数年前に流行りましたよね。原作は海野つなみさんの漫画で、今年の正月には続編ドラマがスペシャルとして放送もされました。
この「逃げ恥」は、ネットのニュースなどによれば、独身女性に勇気を与えたようです。
「恋愛すべき」とか「恋愛ではこんな手順をふまなくてはいけない」とか「高齢処女は恥ずかしい」とか、そのような社会の暗黙のルールや風潮に対して疑問を投げかけ、ちょっと型破りなアプローチで幸せを築いた作品だったと思います。
この作品が流行ったとき、「逃げてもOK(=一般的なしがらみに囚われなくてもOK)なんだ」的な共感が多かったと思うのですが、それはきっと今まで「逃げてはいけないという常識」があったからですよね。
で、ふと「隠れ上手の若君」に目を向けてみると、鎌倉時代は群雄割拠の戦国時代より昔とはいえ、やはり武士は戦って勝ってなんぼという世界ですから、「勝つのが当然=勝つのが常識=逃げるなんて非常識」といえると思います。
そんななか、時行は逃げて隠れます。まさに非常識です。
でもだからって時行がなにもしてないかといえばそうでもなく、鎌倉奪還を数回成功させるという功績も残している。
だから「隠れ上手の若君」の主人公が時行だと知ったとき、これは常識の転換を感じさせて面白いなあと思いました。
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「逃げちゃだめだ」から「逃げるも戦略」の時代に?
こういうふうに「今までの常識と反対のものがスポットライトをあびる」のは、まさに時代の移り変わりを感じさせます。ちょっとオカルトの領域では、去年の12月下旬ごろから社会全体が大きく変革しはじめるといわれていますよね。
かつて一世風靡した新世紀エヴァンゲリオンには「逃げちゃだめだ」の世界観がありましたが、ひょっとすると令和になった今では「逃げるも戦略のうち」になったのかもしれません。
といいたいところなのですが…
ここで個人的に頭をよぎるのが「鬼滅の刃」なんですよ!
「逃げちゃだめだ」の世界観をもつ鬼滅の刃
「隠れ上手の若君」と「鬼滅の刃」はとくに関連性はないと思いますが、個人的に直近で読んでいたのが鬼滅の刃だったので、ついつい頭のなかでこの2作品を対比してしまいました。いや~僕の悪いクセ!(by杉下右京)
で、この対比がけっこうおもしろかったんですよね!
これはあくまで個人的な視点での対比なので、清く正しい考察は専門家に譲ることといたします。
鬼滅の刃の主人公・炭治郎は、鬼を怖がりつつも「逃げちゃだめだ!」と自分を鼓舞していました。その後も「俺は強い!」と自分を奮い立たせています。これは先ほど書いた「逃げちゃだめだ」のほうの世界観です。
この「逃げちゃだめだ」の世界観が人々の共感を呼ぶのは、本当は誰しも嫌なことや怖いことから逃げたいけど、逃げないで立ち向かってその先に進める自分でありたい、という欲求があるからではないかと思います。だから主人公に自分を投影した場合、勇気をもらえるわけですよね。
なぜ逃げちゃだめなのかは、人によって理由が異なりますが、炭治郎の場合は以下のような言葉でそれを表していました。
「俺は長男だから我慢できたけど、次男だったら我慢できなかった」
これは戦闘中のモノローグで、心のなかで思っていたことです。この言葉がどういう意図で描かれたのかはよくわかりませんが、大正時代という時代背景から家長制度が絡んでいるという考察が多いようです。
そこからすると、「自分は長男で家族を守らなければならない立場だから、我慢しなければいけない」ということになりましょう。
鬼滅の刃で描かれた長男像
で、この「炭治郎=長男像」というのが、この作品の感想としてけっこう大きくクローズアップされているように感じたんですよね。実際に同作品のファンだという芸能人が、長男だからといったところが良かった、的なコメントをしていました。
鬼滅の刃は炭治郎の責任感がすごく強く描かれていましたが、それこそ「長男的」だと思います。(厳密には長子的)
もちろん責任感の有無は生まれ順にかかわらず個々人の問題ですが、鬼滅の刃の場合は、「自分が何とかしなければ」「自分があのときこうしていれば」という、責任感とともに罪悪感と自己犠牲がベースにあるのを感じたんですよね。
鬼を倒したいのが自分のためだったら罪悪感と自己犠牲はありませんが、一番の目的が妹を助けることなので、こうなると利他的な理由で自分の目標が定まっていることになります。
炭治郎は長男の鑑!的な賛辞をいくつか見かけたのですが、もしこの作品のなかの炭治郎という少年を理想的な長男とするならば、責任感だけでなく罪悪感と自己犠牲も植え付けることになりましょう。
それはいわば、「(自分のためではなく)家族のために生きてね」「家を継いでね」「期待を裏切らないでね」という願いであり、そういうのを普通だと思う人もいれば、呪いであり洗脳だと考える人もいます。
とにもかくにも、そういう長男的な思想を押し出した作品がここまで大ヒットしたというのは、おそらく時代の空気なんだろうなあと思ったんですよね。普遍的なテーマではあるけれど、時代にマッチしていたんだろうな、という。
で、「隠れ上手の若君」を知ったとき、あれ、昨年大ヒットした「鬼滅の刃」とはずいぶん風向きが違うな、むしろ反対じゃない!?と思ったんです。
そう…
だって北条時行は次男なんですよ!!!
次男的生存戦略「逃げる」は当然のこと!?
北条時行には兄ちゃんがいましたが、鎌倉幕府滅亡の際に殺されてしまい、彼は母親のはからいにより助かりました。周囲が自害しまくるなか生き残ったのだから、めっちゃラッキーボーイです。
早めに兄を亡くしたということは、いかに時行が次男であっても、長男的な役割を担った可能性が高いです。北条家は父ちゃんの高時で断絶ということになっていますが、時行を最後の当主と考える向きもあるようです。
そんなわけで必ずしも次男的ではないかもしれない時行ですが、「隠れ上手の若君」で逃げたり隠れたりする部分がクローズアップされるなら、「鬼滅の刃」の逃げられないというスタンスとは対照的だなあと思ったのですよね。
ひょっとすると「逃げる」は次男的戦略なのかもしれません。というのも、かつては長男しか家督継承できず、次男以降は寺に入れられたり養子に出されたりしていました。時代と地位によっては食い扶持を減らすために売られたり殺されたりもしています。
家系を継げないなら、一国一城の主にはなれません。自分のテリトリーを守るためには、どこか別のところにいって、自分のテリトリーをもって、そこで一旗揚げないといけない。つまり「逃げる」は、次男以降にとっては当然の生存戦略ともいえそうです。
時行は、北条家の家臣である信濃・諏訪家にひきとられて育てられました。この時点で時行は自分のテリトリーを移しています。その後、養父が敵方に殺されますが、彼が尊氏と対峙しつづけた理由には養父の仇討ちをしたいからという説もあるようです。
しかし考えてもみてください、時行は実父を殺されているんです。なのに実父じゃなく養父の仇討ちに執念を燃やすとは!
まあ恩があるからかもしれませんが、仲間を大切にしつつも最終的に「家族という絆」に主眼をおいている鬼滅の刃とはだいぶ違うなあと、ここでも思ったのでした。
余談:我妻善逸の末っ子的生き方がすごいと思う件
ここでちょっと余談ですが、鬼滅の刃に出てくる我妻善逸くんは、「逃げちゃだめだ」の世界観の人ではないですよね。むしろ「逃げたい!もうやだ!!!」とか言って、炭治郎に「俺を守って!」とか言ってましたからね。年上じゃなかったっけ!?(笑)
しかしこの善逸の生き方って、「すごくうまいなぁ~」って思ってしまいました。実際の設定はどうか知りませんが、世間一般的にいわれる末っ子的イメージですよね、この甘えんぼうで我侭で守ってもらいたい!という感覚って。
でもいざというときはビシッと決めるので、ああいう生き方は一番自分に優しい生き方なんじゃないかなあと思いました。
個人的には、臆面もなく「助けて!」と周囲に訴えられる時点で、善逸って強いなあと思いましたね。
なぜいま鎌倉時代なのか?
話を「隠れ上手の若君」に戻しますが、鎌倉時代が題材の作品と知ったとき、ふとあることを思い出しました。
それは…そう、NHK大河ドラマです。
2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は鎌倉時代が舞台!
主人公は第2代執権・北条義時!
2023年の大河は徳川家康が主人公ということで戦国もしくは江戸にもどりましたが、正直、「え、ここまで鎌倉時代がくるの!?なぜ今!?」と驚いています。
「鎌倉殿の13人」は第2代執権・北条義時が主役なので鎌倉時代初期のおはなしで、「隠れ上手の若君」は鎌倉幕府滅亡期のおはなし。上手い具合に最初と最後ですねw
ちなみに北条義時もいままでそれほどクローズアップされなかった人物で、どっちかというと父ちゃんの北条時政や姉ちゃんの北条政子のほうが有名ですよね。
令和のいま、いままで取沙汰されなかった人物が主役となり、鎌倉時代が注目を浴びる…う~ん、なにやら不思議な雰囲気です!
個人的にちらっと思ったことですが、ひょっとして「隠れ上手の若君」はそのうちアニメ化するんじゃないですかね?
前作「暗殺教室」もアニメ化しているし、アニメ化実績のある漫画家さんって次回作もアニメ化しやすいですよね。
で、ひょっとしてひょっとするとそのアニメ化が2022年とかで、その年は鎌倉時代フィーバーになるのでは!?なんて思ってしまいました。単なる妄想ですが!
長男的時代から次男的時代はくるか!?
ここまでいろいろ語ってきましたが、わたしの中では「鬼滅の刃(長男的)」と「隠れ上手の若君(次男的)」との対比はけっこうおもしろいなあと感じました。
ちなみに長男的とか次男的というのはあくまで思想的な意味合いで書いているので、人によっては長男だけど次男的とか、次男だけど長男的、というのがあると思います。また、女性についても、長女的次女とか、次女的長女とかあると思うんですよね。
鬼滅の刃の大ヒットは、自分のなかでは長男的思想のヒットと考えています。だからこそ、つぎにヒットするのは何だろう?と気になるんですよね。そんななかスタートした「隠れ上手の若君」がとても次男的だなあと思ったので興味深かったのです。
以上、創作ヲタクの独自視点的考察でした!
ではでは、また!